お芝居では、役者がある役柄を演じるとき、役者の持ち味や個性にぴったりな役を「はまり役」とか「ハマっている」などと言います。
または「その役は君の任(にん)だよね」とか、「そのキャラは任(にん)じゃないよね」などと言います。
反対に、その人の守備範囲から外れた役柄を「任(にん)じゃない」というのです。
なので、「任」にもかかわらず出来が悪いと、演出家は怒ったり、嘆いたりします。
私も過去に嘆かれたことがあります。
特に当て書き(その役者を見て合うキャラをわざわざ書いた台本)の場合は、「あんたに合わせて書いたのに何でそんなに不出来なのーー!!」ってなります。
そのときの私の役は、酒好きの姉御肌で、酔っ払って後輩に絡むシーンがありました。私は酔っ払いの演技が、ものすごく下手だったのです。
演出家は「普段のまんまやればいいんだって!」と言いますが、酔っ払いはシラフのとき、酔っているサマを思い出せないわけですから難しいのです。
むしろ酔わない人や、飲めない人の方が冷静に酔っ払いを見ている分、酔っ払いの演技が上手であることが判明しました。酔っ払いはちょっとイレギュラーでしたね。
さて、どんな上手い役者でも、役者じゃない人でも「任」ってあります。下手でも「任の役」を演じると、すごく上手い役者に見えます。当たり役に出逢って、スターダムにのし上がる人っているでしょ。
反対に、あまりにも「任じゃない役」を演じたために、観客がイマイチだと感じた場合、役者の問題ではなく、演出家やプロデューサーの「ミスキャスト」が指摘されることがあります。
通な観客は、役者の力量の問題か、そもそも任の問題かちゃんと解るのですね。
劇団の仲間内ではよく、普段から何でも「任」のせいにして盛り上がっていました。例えば、普段の服装や、食べてるものが何となくその人っぽくないだけで「それ任じゃないよね」
さらに、無骨なタイプの人が、カラオケでV系のナイーブな曲を歌ってイマイチのとき、「お前の任じゃないだろー」そんな風に使っていました。
正式な意味を調べてみると、そんなに間違った使い方ではないようでした。
字の通り「任せる」という意味なので、任せるに堪えないことを「任じゃない」と表現していたということです。
これと同じことは、会社の仕事でもいえます。
特に内向的な人は、任じゃないことを自分の力量だけのせいにして、自分を責めてしまうことのないようにしましょう。
責めるなといっても、会社組織の中では、異動や職種の転換など、希望が言える環境ではないことが多いと思います。それでも、自分を責め過ぎないように、客観的になってみましょう。
そしてマネジメントをする人は、酔っ払いの演技に見られるような意外な盲点により「任」の与え方を間違えないようにしましょう。
酔っ払いの私が偉そうに言うことじゃないんですけど。ていうか、例えがマニアックすぎました。
あなたの任はなんでしょう。