感情表現が苦手な性格特性の概念にアレキシサイミアというのがあります。
自分の感情に対して言葉がないという意味で、対人関係の中で口数が少なかったり、誤解をされたりすることがあります。
また、想像力が乏しく、人の心情を察することが難しいです。
しかし悲しい、辛い、嬉しいなどの感情を把握できないだけで、決して無感情ではありません。
そのため、感情が奥底に抑圧されたままになり、知らないうちに大きなストレスとなり蓄積してしまいます。
会話というのは主に「情報の伝達」「感情の共有」という二つの目的があります。
アレキシサイミアの特性をもつ人は、後者の感情の共有が困難で感情を伝えることが苦手なため、接する人にクールな印象を与えたり、場合によっては心を開かないで当てつけされているのではないかと誤解されたりしがちです。
私は子供の頃は感情表現が苦手で、人前で泣くことが全くできないところがあり、表情が乏しく大人しい子でした。
学校では特に大人しいのですが一方、内弁慶で溜まった癇癪を家庭内で爆発させる問題児でした。
しかし演劇をはじめてからは感情というものを感じつくし、想像力を膨らませ表現する訓練によって感情豊かな特性が出てきました。
それは胸に強い風が吹き込んだような、大洪水に流されたような感じで、身体ごと取り換えられたような激しい変化でした。
おかげで人生が一気に開けたような感覚があり、楽しい時間も、腹の立つ時間も増えました。
今ではどちらかというと、溢れる感情を抑えるために自分をコントロールすることが多いです。
テレビで事件や事故の報道を見ると、当事者の気持ちを強くイメージしてしまい、呼吸が苦しくなります。
なので、どちらが良いとか悪いとか一概にはいえません。
ただ、感情を感じやすい方が人生そのものの濃淡がくっきりとして、喜びも悲しみも怒りも楽しさもダイナミックで生きている実感が強くもてるようになりました。
アレキシサイミアの人は几帳面で、神経質で、八方美人で、大真面目なタイプが多いです。
そして、情報伝達ができれば仕事はきちんとこなせます。仕事の評価は高い人が多いでしょう。
でも、人とのつながりのなかで感情の共有ができないと、仲間内で浮いたり孤独感が強くなったりしやすいと思います。
私は劇団で強制執行されて感情の扉が開いてしまいましたが、もし誰か一人でも理解者がいて、リラックスして打ち解けられる人がそばにいれば変わってくるかもしれません。
ひとつの性格の特性は、個性を形成する要素の一つにすぎません。
しかし、もし自分にこのような傾向を認めていて辛く感じているなら、演技の体験をしてみるのが有効だと思います。
舞台の脚本を逆からひもとき、セリフから登場人物の心情を分析したり、味わったりする訓練は非常に効果が期待できます。
もしくは映画などを見る際に、全体を引いて眺めるのではなく、主人公の体に入り込むように一体化して感情移入することを意識してみてください。
そして役者の表情の変化を見て、喜怒哀楽のどれに近い気持ちになっているか確かめてみましょう。
さらには、ウキウキ、ワクワク、ムカムカ、ドキドキ、ポカポカ…どんどん細分化して当てはまるものを見つけましょう。
注意することは、理屈で処理しないことです。
例えば飼っているペットが死んだとしたら、この間まで一緒に居た存在が消えてしまい、目の前からいなくなった悲しみを味わってください。
頭で「寿命があるから仕方ない」とか「悔やんでも時間の無駄」などと片付けないでください。
胸の痛みや喪失感は大きな苦痛となりますが、逃げていては変わりません。
いっぱい涙を流してください。
蓋をしないと辛いかもしれませんが感情をせき止めない方がよいです。
社会的に問題のない範囲で理性を飛ばしてしまいましょう。
こういうのは自己啓発セミナーなどでやることがありますが、やるのは結局自分なので高額な費用をかけなくても自分で行うことは可能です。
もし、トラウマになっているきっかけの感情があるなら、出して認めて見送りましょう。
消えていくために出てきた過程ですがら、抑えて握りしめていたらいつまでも自分に負の影響を与えます。
あなたの疎外感は頭を解放してバイアスを変えてみることで改善される可能性があります。
その後の人生が灰色から鮮やかな世界に変化するのを体験できます。
良い意味で人を頼ったり、人を驚かしたりできるようになります。